
日本自然保護大賞2025最終選考委員会を開催しました
2025.9.10
公益財団法人
日本自然保護協会
日本自然保護大賞担当
TEL03-3553-4101
E-mailaward@nacsj.or.jp
〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
日本自然保護大賞2025
選考委員長
土屋 俊幸
公益財団法人
日本自然保護協会
理事長
2025.9.10
兵庫県 三田市
兵庫県
皿池湿原は、三田市テクノパークにある10の湿原からなる湿原群で、2017年から、三田市が事務局となり、兵庫県立人と自然の博物館など専門機関や、市民及び企業等からなるボランティア組織「皿池湿原の守り人」とともに保全活動を実施している。隣接する工業団地の開発予定範囲内に位置していたが、専門家らの調査により、市の生物多様性を維持するうえでも非常に重要であることが明らかになった。そのため市は、都市計画により風致公園として保全していくことを決定、環境教育・生涯学習、大学生のフィールドワークの場としても活用され、多様な仲間が関わることで、地域の大切な宝を次世代へ繋ぐ取り組みが続けられている。
東芝ライテック株式会社今治事業所
愛媛県
東芝ライテック株式会社今治事業所は、東芝グループが国内外の約60拠点で生物多様性保全活動を推進するとした方針を受け、2010年に構内の樹木調査から取り組みを開始、事業所の環境管理委員会を通じての社内活動の啓発、地域社会の活動にも参加を始めた。織田ヶ浜は、海岸植物「ウンラン」の愛媛県内唯一の自生地で、2015年から現在まで、移植会、動植物マップづくり、海ごみ拾い活動など、ウンランやハマビシなど希少植物を含む海浜の生態系保全活動を展開している。
愛媛県今治市織田ケ浜を中心として、希少動植物の調査・保護活動を2010年から継続し、効果をあげている。とくに、環境省や県・市の行政、地域の専門家や関連会社、地元住民、小中学校の生徒などと幅広い連携体制をつくりあげ、これまでに延べ1,500名以上の参加者とともに、発展的に活動を継続してきた点が評価された。小中学生と動植物マップを作る活動や、海岸の清掃などを通じて、環境教育・コミュニケーションなどでも波及力の高い活動を維持している。
中静 透国立研究開発法人森林研究・整備機構理事長/森林総合研究所所長/公益財団法人日本自然保護協会 理事
愛知県立佐屋高等学校科学部
愛知県
愛知県立佐屋高等学校科学部員の多くは農業科の稲作専攻生で、授業での学びの中から、水田の生物や環境に関心を抱き、活動を開始。授業では農業技術を学ぶことが中心のため、科学部では、授業では得られない学び、探究を目的に活動している。現在の中心テーマは、2019年から始めたドジョウと2023年から始めたナゴヤダルマガエルの保全活動に取り組んでいる。大学や外部研究者と連携して生態研究や保全活動に取り組み、2025年には土水路でドジョウの生息数が増加した。希少種保護や外来種駆除のほか、知り得た知見を地域に還元するため卒業生や大学生などと協働して自然教室を開催。地域の小学生と一緒に、もち米「カエル米」の栽培にも取り組んだ。地域の水田環境に直面する課題を高校生の力で解決することを目指している。
愛知県立佐屋高等学校科学部の取り組みは、水田環境の維持を中心にしながらもナゴヤダルマガエルや水生昆虫類などの在来種の調査・保全活動やスクミリンゴガイやアカミミガメなどの外来種対策などを積極的に行い、水田や水路の生物多様性の保全を強く意識した活動を展開している。それらは大学の研究者や研究機関と連携することで研究レベルを上げつつ、また同時に地元の子どもたちへの啓発活動や、川の上下流との交流も盛んに行っている。これら総合的な活動を評価し、これからの稲作農業に対する波及効果も期待して大賞とした。
神谷 有ニ株式会社山と溪谷社 第2出版統括部統括部長 兼 自然図書出版部部長/公益財団法人日本自然保護協会 理事
矢野 亮
東京都
矢野亮氏は、東京都立高尾自然科学博物館、国立科学博物館附属自然教育園などをフィールドに、一貫して「自分で調べて、自然観察」することを長年にわたり行った。定説に対しても、仮説を立て、記録を取り、フィールドにて検証を行った。都市のカラスの生態、カワセミの繁殖生態、アズマヒキガエルの生活、キアシドクガの異常発生とミズキの大量枯死など長期にわたる調査も多く、多くの知見を見出した。フィールドでの豊富な調査研究の成果をもとに、自然保護や自然教育の普及にも積極的に取り組んだ。現在では一般に普及している「飛ぶたねのふしぎ」プログラムは、矢野氏が「根をはり動かない植物が、分布を広げるために様々な工夫をしてたねを散布していることの面白さ」を早い時期に取り上げ、工作のノウハウと展開をプログラム化し、材料の供給体制も作ることで、一般化に大きく貢献した。また、自然教育園は、生態学者らによって決定された管理の基本方針にそって1972年から長期間にわたり植生遷移を維持し、変化や動植物の消長が記録されている世界的にも稀有な都市林である。矢野氏はその大半の期間の運営を担った。矢野氏は長年の活動により、多くの人材を育て、活動フィールドの充実に取り組み、自然保護・自然教育の発展のための礎を築いた。
今回「沼田眞賞」を受賞された矢野亮さんは一貫して「自分で調べて、自然観察」を大切にされ 1969年から活動を続けて来られた。特に自然への理解を児童や生徒達に深め、親近感を持たせる為の自然科学プログラムの開発は自然の大切さと面白さを伝えた。また、自然観察指導者にも大きな影響を与え、多くの後継者を育てたと言われている。選考会の時に昔から人気という自然観察の冊子を見て、小学生の頃、学校の図書室に沢山あったあの懐かしい図鑑を思い出した。その最終ページには「矢野亮」の文字が謙虚に描かれてあった。多岐に渡る研究を通して多くの人材を育て、それは自然教育発展の礎を築いたと言えるでしょう。
イルカIUCN親善大使/シンガーソングライター/絵本作家/公益財団法人日本自然保護協会 参与
NPO法人信州草原再生
長野県
長野県上田地域は少雨のため、ため池が多くある。江戸時代に作られたものも多く、水を貯める堤体は、管理の過程で草原が維持され、希少植物が多く生息する環境となっている。一方、東日本大震災、西日本豪雨等でため池が決壊し、全国各地でため池の耐震補強工事が予定されている。上田地域のため池、山城等の調査を基に、草原の歴史の長さと植物の種数の多さには相関関係があることを明らかにし、保全を訴えていた筑波大学田中健太准教授の協力を得て、上田市のため池管理者勉強会の参加者が中心となり、耐震補強工事と植物保全の両立を目指した試行錯誤が始まった。保全活動に必要な住民や地域企業の協力を得られるようになり、住民を中心にしたため池の希少植物保全活動「上田モデル」が始まった。その後、「上田モデル」を側面からサポートする組織として、NPO 法人信州草原再生が誕生、この取り組みを今後県内外に広めていくことにより、貴重な草原の植物を保全していくことを目指している。
ため池や草原の保全・再生は生物多様性上重要なテーマですが、スポットが当たりにくい場所です。長野県上田市では江戸時代につくられたため池と周辺の草原が維持管理されており、希少植物も多く生息しています。その重要性に着目し、大学が地域住民と共に保全・再生活動を実施し、希少植物を守る工事の提案をした意義は大きいと感じます。また、ため池の堤体を生育環境にした草原性の希少植物に着目した活動もユニークです。筑波大学の故・田中健太准教授が中心となり、勉強会や自然観察会など住民を巻き込む活動を展開し、NPO「信州草原再生」を立ち上げて活動を広めた功績も高く評価されました。アカデミアが知見を提供し、地域住民が主役となる活動は他地域にも横展開できる優れた活動だといえます。
藤田 香東北大学 グリーン未来創造機構教授/大学院生命科学研究科教授/公益財団法人日本自然保護協会 理事
受賞者
大同特殊鋼株式会社
地域
北海道
活動テーマ
クッチャロ湖自然再生&地域活性化プロジェクト
講評
ラムサール条約登録地そばに広大な社有林を持つ企業が、20年にわたって生物多様性向上に貢献する森林保全活動を進めてきた点が高く評価されました。森林組合や林業会社と連携し、地元NPOの地域活動を支援している点も優れています。(藤田 香)
受賞者
日本製紙株式会社
地域
北海道
活動テーマ
シマフクロウ生息地保全と事業活動の両立:日本野鳥の会との協働
講評
日本野鳥の会と連携して社有林を中心にシマフクロウの保全を2010年から継続し、自然の回復と企業活動を両立させたモデルとして、成果も上がっている点が評価された。(中静 透)
受賞者
特定非営利活動法人Earth Communication
地域
静岡県
活動テーマ
産官学民が連携し取り組む『久々生海岸 里海プロジェクト』
講評
近年衰退が課題になっているアマモ場の保護・再生に関して、海岸環境全体の視野をもち、地域の連携によって活動を展開していることを評価した。(神谷 有二)
受賞者
愛知県立新城有教館高等学校 作手校舎農業クラブ生物保全プロジェクト班
地域
愛知県
活動テーマ
生物多様性の保全に向けて!~作手地域からの挑戦~
講評
愛知県にある作手地域。そこに絶滅危惧種が生息している事を知ったのは授業だった。そこには外来種も共に生息しており、調査や外来種駆除活動も開始した。彼らは外来種樹脂封入キーホルダーやスノードームにもしている。(イルカ)
受賞者
株式会社NTTドコモ
地域
大阪府
活動テーマ
ドコモ泉南堀河の森での継続的な保護実践~教育・普及の取り組み
講評
「昭和30年代以前の里山の復活」をめざし、企業グループ社員、府、ナショナルトラスト団体、地域の共有林という異質の団体が協働し、四半世紀にわたって活動してきたこと。この実績は何物にも代えがたい。(土屋 俊幸)
※講評者の所属等は、受賞当時のものです。
講評
三田市は、隣接する工業団地の開発予定地内にあった湿原群を生物多様性維持のために重要な自然の宝庫として保全することを決め、天然記念物に指定するなど次世代に繋ぐ取組みを行ってきた。同市は自らが事務局を務め、湿原特有の多様な生物が生息・生育する自然環境を地元の博物館などの専門機関、市民・企業等からなるボランティア組織とともに、環境教育や生涯学習、研究、野外活動の場 などとして活用しながら保全活動を続けている。今後も同市がリーダーシップを発揮し、多様な主体と連携してこの貴重な生態系を保全・活用していくことを期待したい。
石井 実大阪府立大学 名誉教授/地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所(大阪環農水研)理事長/公益財団法人日本自然保護協会 理事