
受賞者
ご挨拶・総評

日本自然保護大賞2024
選考委員長
土屋 俊幸
公益財団法人
日本自然保護協会
理事長
2024年の活動報告
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受賞者 活動紹介/講評
保護実践部門
千年続いた阿蘇の草原を次世代に
~野焼き支援ボランティアとともに歩んだ25年~
公益財団法人 阿蘇グリーンストック
熊本県
公益財団法人阿蘇グリーンストックは、都市と農村、企業、行政4者の連携を図りながら、熊本県阿蘇地域の広大な草原を未来に残すために保全活動、環境教育、調査研究等を行っている。元来、草原は地域住民によって維持管理されてきたが、農畜産業の衰退や少子高齢化等によって地域住民だけで維持管理が難しくなったため、都市に住むボランティア、企業、行政が阿蘇の地域住民を支援する「野焼き支援ボランティア」を結成し25年にわたって支援を継続している。現在では県内外に1000名を超えるボランティアがおり、年間延べ2000人を超える方が野焼き及びその準備作業を行い、オール九州で阿蘇の草原を支えている。



教育普及部門
クマゼミから学ぶ『わたしのSDGs』
蕨ひがし自然観察クラブ・蕨市立東公民館
埼玉県
クマゼミが蕨市民公園にいると知り、独自手法も加えて地元の自然観察指導員3名で調査を開始。2010年から14年間、夏休みの土曜日早朝に毎年8回同じ手法でセミの抜け殻しらべを実施している。2012年に、蕨ひがし自然観察クラブを立ち上げ、蕨市立東公民館と自然観察会を共催するなど活動を本格化。西日本の暖かい地域のセミであるクマゼミの増加と地球温暖化を子どもたちと楽しみながら学んでいる。長年の調査と普及が認められ、SDGs関連の蕨市協働事業にも採択された。



講評
6種のセミの抜け殻を集めて分析するという、シンプルだが精度の高い観察を、幼児から高齢者までの幅広い参加によって 2010年以来14年間継続し、温暖化によってセミの割合が変化していく様子を明確に示した点がすばらしい。蕨市や地域社会との意見交換により活動は拡大し、結果は小学生の自由研究としての発表や、生涯学習フェスティバルやセミナー、SNS、オンライン観察会などで紹介され、全国的にも注目される活動となり、市民教育や啓発などの普及効果も高く評価された。

中静 透国立研究開発法人森林研究・整備機構理事長/森林総合研究所所長
子ども・学生部門
甦れ!本州西端のオオサンショウウオ
高川学園中学高等学校 科学部オオサンショウウオ班
山口県
オオサンショウウオにとって、山口県は本州西端で分布域は狭く、1970年代以降は消息が途絶えていた。このような衰退状態の中、2006~2007年に、山口県錦川にオオサンショウウオが生き残っていることを発見。2009年に文化庁から許可を得て生態調査を開始した。2012年に河川の落差工周辺域の個体群に「痩せ現象」発症、2015年に微胞子虫を検出。これらの原因は水質悪化であるため、河川環境の悪化を科学部部員が解明した。この研究成果に対して行政が動き、7年かけて生息地の復元と再生事業が行われた。復元地での移植放流も成功した。その後、研究と並行して、種の保存活動として「保護のための現地観察会」を主催し、野生種である文化財とのかかわり方や希少種の保護についての啓蒙活動も行っている。



講評
近年、特別天然記念物のオオサンショウウオは、人為移入された外来種の中国オオサンショウウオとの交雑が大きな問題となっています。地域によっては雑種化が進み、在来種の絶滅が危惧されている場所もあります。高川学園科学部オオサンショウウオ班は本州分布域の西限という重要な地域で、自治体や研究者、あるいは地域住民といっしょになって、オオサンショウウオの保護・啓発活動の最前線を担っていることを評価しました。

神谷 有ニ(株)山と溪谷社 自然図書出版部部長兼経営企画部部長
沼田眞賞
身近な自然を守り残すために
~重井薬用植物園の自然保護活動~
重井薬用植物園
岡山県
創設者の「市民のために素晴らしい自然を残しておきたい」との願いに基づいて、1964年の整備開始当初から、植物のみならず、昆虫や野鳥、動物などのすみかとなることを目的として管理している。園内では100種ほどの絶滅危惧植物の域外保全に、原則として遺伝的地域性に配慮しながら取り組んでいる。近年は岡山県内各地で自然観察会を開催するとともに、岡山県下最大のサクラソウ自生地の保全のため真庭市の「津黒いきものふれあいの里」と共同でボランティア団体「山焼き隊」を立ち上げ、火入れや夏草刈りなども実施、現在も蒜山自然再生協議会の一員として活動を継続している。岡山市でのハマウツボ保護活動など、各地域で助言・サポートを行うことで保護団体の立ち上げなど地域での保全活動を具体化。県内各地の自治体や他施設・団体と連携しつつ市民ボランティアと共に貴重な自然環境の保全活動を行っている。




講評
岡山県で野生絶滅したミズトラノオをはじめヤチシャジンなど約100種の絶滅危惧種の植物を保全するとともに、園外各地で自然保護活動を実施・支援してきたことが高く評価されました。自然観察会や火起こしなどの自然体験教室など教育にも熱心に取り組んでいます。こうした活動には市民ボランティアが大勢参加し、2012年以降延べ約6000人に上ったといいます。植物園が地域の人々をつなげる自然の保全・再生のハブとなり、地域全体をネイチャーポジティブに導いている優れた事例といえます。1964年の整備開始から始まった長年にわたる活動の根底に、植物園創設者の「市民のために素晴らしい自然を残しておきたい」という願いが感じられます。沼田眞博士の志を未来に伝えるのにふさわしい活動であるとして高く評価されました。

藤田 香東北大学 グリーン未来創造機構教授/大学院生命科学研究科教授
選考委員特別賞
大雪山国立公園の
山岳トイレ問題解決に向けた取り組み
山のトイレを考える会
北海道
トイレのない大雪山国立公園の美瑛富士避難小屋やトムラウシ山の南沼野営指定地は、登山者の排泄による汚物やティッシュが散乱し、高山植物が踏みつけられ裸地が拡大するなど目を覆う惨状だった。これを何とかしたいとの思いで活動を開始。登山者によるし尿汚染、景観の毀損、高山植物の踏みつけをなくすため、啓発活動として登山者に自分の排泄物を持ち帰る携帯トイレの使用を呼びかけてきた。現在では、登山者による携帯トイレの持参率は90%以上となった。携帯トイレを使用しやすくするために、官民協働して携帯トイレブース設置の機運を醸成し、複数の場所に設置を実現した。汚物やティッシュの散乱は大幅に減少し、植生も回復してきた。



講評
登山の途中で立ち寄ったトイレの状態に不快な思いをした方は多いでしょう。また、登山者の少ない山域では、そもそもトイレが存在せず、環境保全上、景観上、深刻な問題を引きおこしている事例があります。最善の解決策として、携帯トイレの携行・使用があるのですが、その普及には様々な課題があるのも事実です。当会は、そうした中で、トイレ問題について「考える」活動だけでなく、現地での実践活動、啓発活動を、地道に、しかし着実に、長年取り組んできました。地域に拠点を置いた官民協働活動を高く評価すると共に、今後の活動の継続を強く望みます。

土屋 俊幸公益財団法人日本自然保護協会理事長/東京農工大学名誉教授
選考委員特別賞
プロジェクト「子どもが元気、生きもの元気、地域が元気」
の実践活動
NPO法人 暮らし・つながる森里川海
神奈川県
2001年4月、川の自然とふれあえる場づくりを図るため、行政との協働活動により、相模川では唯一の水辺の楽校である「馬入水辺の楽校」を開校。しかし、子どもたちの遊び声が聞こえてこないことから自然離れが進んでいることを知り、自然体験・環境学習活動に力をいれるようになった。五感を育む体験をメインに進め、昆虫ホテルづくりなど、環境保全活動と自然観察を合わせた取り組みを展開。運動の輪を広げようと、上流部の山梨とつながる桂川・相模川上下流交流会やイベント「湘南ピクニック土手の下のSDGs」も開催している。



講評
プロジェクト「子どもが元気、生きもの元気、地域が元気」の実践活動は、2001年の水辺の楽校の開校に始まります。当初は、駐車場や不法投棄の場の自然環境の復元に取り組んでおりましたが、その後、子どもたちの自然体験や多様な環境学習活動を展開し、ウナギの棲む川づくりやカヤネズミの生息地保全など、生物多様性保全の活動に力を入れています。地域にしっかりと根をおろし、子どもからお年寄りまでの参加者の広がりと、活動の幅の広さと深さにおいて特別賞に値するものと評価されました。

亀山 章公益財団法人日本自然保護協会顧問/東京農工大学名誉教授
入選者一覧(6件/都道府県順)
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受賞者
群馬県立尾瀬高等学校
自然環境科 -
地域
群馬県
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活動テーマ
尾瀬の水芭蕉プロジェクト
~地域・企業・学校の連携による自然保護活動~ -
講評
尾瀬の象徴ともいうべきミズバショウが激減した湿原において、高校生が中心となって、企業、ボランティア団体、片品村などとの共同により、12,000株以上を復活させた。(中静 透)
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受賞者
やまね酒造株式会社
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地域
埼玉県
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活動テーマ
飯能市に生息するニホンヤマネのエコツアーと保全活動
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講評
美味い酒が生まれるためには、豊かな自然環境が大きく影響する。ヤマネがいる芳醇な森が必要なのだ!(イルカ)
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受賞者
植草学園大学
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地域
千葉県
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活動テーマ
多様な体験を通して 自然との共生を実践・伝播できる人材の育成
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講評
学生の教育と地域の子どもたちの自然体験に活用されている自然共生サイトの好例です。この森で自然に触れた学生・子どもたちの成長が楽しみです。(土屋 俊幸)
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受賞者
中日本高速道路(株)
高山保全・サービスセンター -
地域
岐阜県
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活動テーマ
クロサンショウウオ生態系保全活動の取り組み
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講評
本業の道路工事で減少が危惧される白川郷のクロサンショウウオに対し、産卵地となる人工池を造成し、20年にわたってモニタリングし、自然産卵に至った活動が評価されました。(藤田 香)
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受賞者
加古川の里山・ギフチョウ・ネット
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地域
兵庫県
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活動テーマ
絶滅危惧種選定のギフチョウ(Ⅱ類)、ヒメヒカゲ(ⅠB類)を主とした希少蝶類の保全活動
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講評
長きにわたり希少チョウ類の保護・啓発活動を続け、地域の生物多様性を守ってきた活動を評価しました。(神谷 有二)
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受賞者
NPO法人 SDGs Spiral
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地域
福岡県
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活動テーマ
SDGs万華鏡“KAGUYA”プロジェクト
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講評
生物多様性を脅かす侵略的な竹を駆除して、その竹材を万華鏡にするという活動は、子どもたちに大きな夢を与えるものと評価されました。(亀山 章)
※講評者の所属等は、受賞当時のものです。
講評
阿蘇の雄大な草原を守り続けるには幾つかの事が必要だと言う。それが「野焼き」だ。人の手を入れる事で維持されるのだ。自然を守るためには極力「人間の存在」を近付けない事が大切と思って来た。しかし百年で半減した草原を守り持続的に活用するには人の手による欠かせない幾つかの作業が必要である。防火帯として草を刈っておく「輪地切り」や刈った草の延焼を防ぐための「輪地焼き」など安全に消火作業までをする野焼き支援ボランティアは年間 2000人以上。25年間で 4.5万人にのぼる。たくさんの表情を持つ阿蘇の草原はたくさんの人の手から手へと守られ千年先へと続く。
イルカIUCN親善大使/シンガーソングライター/絵本作家